「血が出る意味、あるんですか?」
審査員である厚切りジェイソンさんに、アイデアソンのときに言われた一言です。
「企画は概ね理解できるんですが、この血が出るデバイスのメリットないじゃん。WHY?無いほうがいいし、そもそもこんなデバイス、1週間で作れるんですか」
詰め寄るジェイソンさん。
「……できます」
そう約束して、わたしは発表を終えました。「あとは審査結果を見守るのみ……」確信はありませんでした。2年前に同じような企画で失敗しているからです。しかし出来ない約束をしたわけでもありません。充分な戦略はすでに練っていたからでした。
いまや毎年恒例となった、MBSハッカソン Hack On Air。
わたしは、今年もアイデアソンを勝ち抜き3年連続の本戦出場。
本戦での結果は、大阪工業大学賞とLINE賞のふたつを受賞しました。
優秀賞最優秀賞には届かないものの、自分たちの発表が認められてとても光栄です。
実際には、チームがかなり良かったので、この発表の評価されたところは全てチームのみんなのおかげです。
反対に、残念なところは全てわたしの責任でした。
チームのみんなのおかげで栄誉な賞をいただいたものの、もうちょっと上の賞には届かなくて、勝利をチームのみんなとわかちあえなかったのは、チームリーダーである私の責任だなあと感じています。
あの優秀なチームで勝ちを逃すという贅沢な体験。一生誇りにします。
予選となったアイデアソンから本線のハッカソンまで、今年はどのように戦ったのか、その様子をレポートします。
というか、とてもいいレポートをすでにマッシュアップアワードさんがあげていただいているので、こちらは個人ブログよろしく自分語りのオンパレード。
「おぎゃあおぎゃあ」
「かわいいなあ。生まれたての赤ちゃん。ねえ、こんどのMBSハッカソン、この子連れて出場できないかなあ」
「ん~いけるんちゃうか。いや、うそ。無理だよね」
生後3ヶ月に満たない赤ちゃんを連れて、ハッカソンに参加することはできなかったので、この時点で妻は出場を断念。友達と調整する時間が取れなくて、今年はわたしひとりで参加することになりました。
今年は人工知能(AI)、仮想現実(VR/AR)、位置情報、IoT、ロボット、フィンテックの6つのテーマのうち一つ選ぶというルールがあらかじめ公表されていたので、これは大会全体にとてもメリットがあったと感じました。
それぞれ、もともとすごい技術なので取り入れたらそれなりにすごいと感じられるプロダクトができるようになること、あと作るものの選定が楽になることが特に大きく感じたメリットでした。
個人的に苦しんだのが、私は「アイデアが技術を超えられない」と呼んでいる現象ですが、もとの技術がすごすぎて、ただすごいだけのプロダクトになりやすい、すごい技術を活かすほどのアイデアが、自分には無いことでした。
世間で「テレビとインターネットの融合」と語られるようになってからもう長く経ちますが、私気づいたんです。
もうすでにMBSハッカソンで、テレビとインターネットの融合は実現してるやん、と。このMBSハッカソンこそが、テレビの面白い未来という、ひとつの形なのではないでしょうか。
わたしが言うまでもなく、技術っていうのはすごいから面白くなるわけではなくって、ただ単にテレビ局がインターネットを通じてIT技術者を集めて大会ひらく、ってだけでこんな面白いイベントは他にはないわけで、MBSハッカソンこそがテレビの未来そのものなんではないかと。
そんなMBSハッカソンも、気がつけばもう3回目。
わたしは技術系コミュニティのイベントを大小あわせていくつか開催した経験もあり、ハッカソンのような競技性のあるイベントの開催経験こそないものの、この規模のイベントを開催することがどれだけ大変か、大変だろうなってところまでは想像できます。そして実際には、おそらくわたしの想像を超えて大変だろうと思います。
それを3回も続けるとなるとMBSにどれほどの信念があるのか、うかがい知ることしかできません。わたし、正直1回目行った時に2回目が開催されれば行きたいけど多分無いだろうな、と思ったんです。それを2回のみならず3回も開催することのすごさ。
これはもう、はっきり言えます。
テレビ局がITイベントをやるというのは、もうすでにテレビとインターネットの融合について正解を叩き出していて、しかもこの分野においてMBSに追いつけるテレビ局は日本全国どこにもいない、と。
「?たった3回でしょ?ほかの局も3回やればあっというまに追いつくやん」と思っている方。その考えこそが、MBSに後れを取っている証拠です。3回やることの大変さが想像できないのは、なぜなら3回やったことがないからです。
「宇都宮さんは今までハッカソンとかよく出られるんですか?6回?すごいですねえ。ハッカソンがお好きなんですねえ」
とよくいわれるのですが、私はハッカソン苦手です。
自分の能力とは相性が悪くて、自分が活躍できるようなものではないからです。
ハッカソンが悪いとかどうこうというわけではなくて、単に個人の能力との相性の問題です。
ではなぜ、苦手なハッカソンに6回も出たのかと言いますと、会いたい人がいるからです。
それは素敵な審査員であったり、暖かくて真面目なスタッフであったり、一緒に戦うチームの仲間であったり、競い合う参加者であったりします。
人に会いたいから、ハッカソンに参加するのです。
こう言うと、参加しなかった時に「おれとは会いたくなかったのか。いじいじ」といじける人がいるのであらかじめ申しておきますと、参加しないときの理由は単にスケジュールがあわないだけです。
さてさて、MBSハッカソンに、3回までも出場して会いたい人といえば、たくさんいるんですが一人だけ挙げるとすればIT系イベントでおなじみの、マッシュアップアワードの伴野さん。
伴野さんは「ぬかり」というものが存在しないのではないかと思うくらい頭の回転が速い方で、この人が失敗するところというのが想像がつきません。それでいて参加者全員に公正。それも突き放した公正さとは対極の、参加者全員に愛があるからこそ誰にも肩入れしない公正さを身につけています。本番プレゼンで失敗しまくった時の、アイデアソンから付き合ってくれている伴野さんからのフォローの言葉に救われた人がどれだけいるか。
視点もかなり高く、ファシリテーターとしてのアドバイスが的確なのも特筆するところですが、それだけだとただの意識高い優秀な人かと身構えてしまう人もいるかと思います。伴野さんが魅力的なのは、これだけ高い視点を持ちながらも、本人はけっこう泥まみれになりながら地べたを這って理想についてもがく情熱家であることです。
おそらく、この人に会うことを楽しみにイベントに参加してるって人、多いのではないでしょうか。
「さあそれではアイデアソン、勝ち残る最後のひと組の発表です!厚切りジェイソンさん!発表をお願いします!」
「チーム、出血大サービズ(わたしたちのチーム名です)!アイデアは正直まだまだですが、本戦までの1週間でどこまで伸びるか、期待します!」
なんと、わたしたちの発表で、一番の肝だったデバイスについて一番反対していた厚切りジェイソンさんから直々に、本戦出場の機会を与えてくださいました。
勝ち残った8組のなかで、いやもしかしたら他のチームも合わせた25組全てのチームのなかでも、この時点ではアイデアは一番しょぼかったのかもしれません。「一番下ならあとは上がるだけ」もっと良くなるようにと期待をかけてくれた審査員の期待に応えるべく、私たちは奮い立ちました。
過去3回ともアイデアソンを勝ち抜いてる立場から言わせてもらうと、MBSハッカソンの楽しさを最大限に味わうためにはアイデアソンを勝ち残らなければならない、という事実をよく考えることが大事です。
「勝ち抜いた」と書きましたが、実際には過去二回は敗者復活枠で残ったようなもので、そういう意味では「たまたま負け残ったことが3回続いた」とも言えるのですが、それでも3回も出場を果たすということはわたしにしか出来なかったことなので、ここは、ここだけは偉そうに語らせてもらいます。
アイデアソンで負けるパターンはいくつかあります。
- 何も用意してこず負けるべくして負けたパターン
- 逆に考えがありすぎてて柔軟に対応できず負けるパターン
- ただ単にアイデアがよくわからないパターン
- アイデアが破綻しているパターン。実現不可能か、わざわざIT絡める意味がないパターン
なかでも一番玉砕するパターンが、
- ビジネスコンペの文法をそのまま持ち出して、「御社にはこのような問題があります。それをこのようなソリューションで解決します」という問題解決型の提案
「テレビってつまらないよね」「不便だよね」「ほかにもいろいろ問題あるよね」っていう前提で、「それをITを使えばこんなに解決wwwwww」を提案してくるパターンです。これは愚策です。
もちろん、おべっかばかり使う必要はないので、きちんとリサーチして本当に解決する提案ができていればいいんですが、そうでないなら相手がテレビでなくても、単純に失礼です。これけっこう間違う人多いんですが、気をつけるべき点だと思いました。
もちろん、繰り返しますがおべっかを使う必要はないので、鋭い指摘で問題提起して素晴らしいアイデアで解決を提案することは、とてもいいことだと思います。自分はそれができないので、「テレビのいいところ、楽しいところをさらに拡張する提案の仕方」をこころがけています。
逆に、私が身につけたアイデアソンで勝ち残るパターンは
- 本戦に期待される、「ほかに無さ」
いまのところこれだけです。
「すばらしいアイデアなので文句なしに本戦出場決定!」といきたいところですが、わたしが感じた範囲では、そういうのは今のところあまりありませんでした。
「世の中を変えるような、すばらしいアイデアをこのアイデアソンで生み出すんだ!」そういうふうに考えていた時期が、ぼくにもありました。
ただ、先進的なアイデア(とわたしが思っているもの)と、アイデアソンやハッカソンとは相性が悪いのです。
どうか否定的にとらえないでください。技量的にあまりすごいことができない自分のような人間が磨いてきた持ち味として、発想の飛躍という技が使えないので、とても戦いづらいのです。
「JavaScriptを使って、地図をブラウザ上で見えるようにする」
世界を変えたこのアイデアは、ご存知GoogleMapのアイデアです。
GoogleMapがまだ生み出されていない世界を想像してみてください。このアイデアが果たしてアイデアソンやハッカソンで勝つと思うでしょうか。
アイデアの世界でよく言われる、「車を発明した人がいうには、人の言うことを聞いていたらもっと速くて豪華な馬車を求めるだけだ」というのは有名ですが、アイデアソンで「携帯電話から電話機能をなくしました!」という類のものは、評価されにくいのです。
日頃から先進的なアイデアを生み出す第一線のクリエイターたちでさえ、MBSハッカソンで苦しんでいるところをみると、アイデアとアイデアソンの相性の悪さは、わたしだけのものではないのかもしれません。
それでもアイデアソンは勝ち残りたい。勝ち残ってハッカソン本戦にいきたい。
それでは対策をどうするかというと、大きく分けて二種類あります。
- お題に対して、いかに優秀な答えで埋めるか
- とにかく人目をひくアイデア
1番は、わたしは優秀と言う言葉とは程遠いので、ここで競っても話になりません。必然的にわたしは2番の戦略をとることになります。
「あなたのアイデアと、わたしのアイデア、似たようなものなのになぜ私のアイデアは落とされて、あなたのアイデアは残ったのか」と言われたことがありますが、面と向かって言われるのもすごいですが、これは明確に違います。
私は、アイデアソンの段階から「ゾンビ」「1000人」「血」「茶屋町」という、ビジュアルを明確にイメージしやすいキーワードを前に押し出しています。
「茶屋町が1000人のゾンビで埋め尽くされて、血みどろになる」というイメージをビジュアルとして頭の中で描きやすいよう、キーワードを審査員に与えているのです。
結果的に、ほかの優秀なアイデアが順番に選ばれたあと、最後にもう一つだけ何を残すか、となったとき、優秀ではないんだけど負け残っても想像がしやすいということで、選ばれる率を高くしています。
私の意見を参考にしても、ハッカソンを勝つどころかアイデアソンでぎりぎり負け残ることがせいぜいですが、意外とアイデア出しが下手な人が多いので、少しでも参考になればと思いました。
今回、タレントの池澤あやかさんが出場者として参加しました。その背景には、おそらくたくさんの時間をかけて出演交渉を経たのだと思われます。
その池澤さんがチームビルドでリーダーとして目立てなかったところにも、MBSハッカソンが参加者を大事にする事情があったことがみてとれます。
タレントイメージ的にもご本人の性格からも(いや、性格しらないですけど)、池澤さんが、ほかの人から頼まれたら断れないことは予想できたはずで、池澤さんがチームリーダーとなってITオタクどもをぐいぐい引っ張っるような絵が撮れなかったのは、テレビ番組的にはとても残念なはずでした。
そこまで予想できていながらも、あえて池澤さんを特別扱いせず参加者と一緒に紛れ込ませたのは、MBSハッカソンの英断だったと思います。
「この人は芸能人なんで、芸能人だけ特別にチームビルディングしまーす!」とはしなかった、これは、MBSさんが出場者をどれだけ大事に思っているかの表れでしょう。
個人的には、自局のスタジオで自局の主催でやるイベントで、それくらいはしてもよかったんじゃないかなと思ったりもしたのですが、ここはMBSさんのこだわりを感じます。
わたしも第一回目のとき、正直にいって「テレビがやるITイベントなんで、どうせ自分らのことコンテンツの一部にしか思ってないんだろう」くらいに思って参加したのですが、反して愛情あふれるホスピタリティに、非常に恐縮したとともに斜に構えていた自分を恥じたものです。
池澤さんの他にも、ラフ次元さんという漫才コンビが参加しました。こちらは相方の空さんが優勝しています。
このラフ次元さんは、漫才とかショウビズの世界はわたしはわからないですが、ハッカソンで見る限りでは非常に優秀なビジネスマンでした。
ご自分たちの役目をしっかり理解していて、その全てを完璧にこなしているように見えました。
ハッカソン参加者のなかには、彼らが背中でときおりみせる「漫才のプロ」たる振る舞いに魅了されたひとも多いと思います。わたしもその一人です。
ハッカソンを勝ち残らなければテレビ的に意味がないのですが、お二人ともしっかり勝ち残った、勝つためにしかるべき努力をしてきた、というのが素晴らしい点のひとつです。
さらには会場全体を盛り上げるという役割も忘れておらず。基本的にアップアップなのは他の参加者と同じはずなのに、いや、ITが本業じゃないぶん、ほかの参加者より苦しいはずなのに、きちんと自分の役割を全うし会場の盛り上げも忘れていませんでした。
何より惚れたのが、ラフ次元の梅村さんが、自分のプロダクトのために街頭で250人にアンケートをとったことでした。
これ、いままでハッカソンでやった本職のプランナーいるんでしょうか。
わたし、何が嫌いってネットから引っ張ってきたような自分に都合のいい適当な数字をコピペしたものをプレゼンで見せられることなんですが、本職でもそうやってラクしようとするのに、寒空のもときちんとアンケートをとる梅村さんの姿勢に高感度大です。これは、苦労したから偉いとかそういうのではなくて、為すべきことをきちんと成しているという点で尊敬できます。
優勝して少し涙ぐむ相方の空さんの姿を見た時、このコンビはほんとうに素晴らしいと思いました。
参加者としてわたしがみた範囲では、与えられた仕事をビジネスマンとして完璧にこなしたコンビといえますので、今後MBSでの仕事は増えるのではないでしょうか。テレビでラフ次元の姿をもっとよく見かけるようになる未来が楽しみです!
アイデアソンの段階から、どのチームも素敵なチームであることは気づいていました。
どのチームも素敵。この抗いがたい事実を押しのけてまで、あえて言いたいことがあります。
それは、うちのチームがとにかく誇らしい、ということです。
わたしは一人でハッカソンに参加したため、即席でチームを作らなければなりませんでした。
そしてできたチームが、アイデアソンでできたばっかりのチームとは思えぬほどのチームワーク。
素晴らしいのはチームであってわたしではないのですが、それでもわたくしごとのように誇らしく感じる、チームのみんなのことを、ぜひとも誇らせてください。
まずはMBS社員の猪下さん。プランナー。
ご自身がボードゲーム好きなこともあり、”囚人のジレンマ”などのゲーム理論もお手の物。
茶屋町でゾンビ体験ゲームをするというイベントの、ゲーム部分のロジックは猪下さんを中心におまかせしたので、一切のほころびもありませんでした。
ほかのプランナーたちより年上ということもあって、みんなからやさしいお兄ちゃんのように慕われていました。
得意技は、社内の他の部署のレーザープリンターで真っ赤なPDFを両面刷って高級色紙(いろがみ)を作ることです。
そしてエンジニアの池内さん。
はっきり言ってスーパーエンジニアで、お世辞抜きにこの人を引き入れられたのは奇跡。
プランナーたちが提案するそばから、数分で実装完了しているその開発スピードに、そばで見ていたUnityの担当者も目を白黒させていました。
池内さんが作った、マーカーレスARでのゾンビ攻撃は、会場内機材の仕様の関係上、動画でしかデモをみせられなくて残念でした。
池内さんの技術力を審査員に存分に伝えられなかったのは、わたしの責任であり敗因の一つだと思っています。
逆に、もしみなさんが企画の技術力を高いと思ってくださったとしたら、その技術を全て支えていたのは池内さんです。
そしてあとの4人は名古屋から来た仲良し4人組なのですが、この人たちがすごい!
若いのに、非常に優秀なビジネスマンたちなのです。
まずはプランナー脇村さん。
4人の中の、リーダー的存在。常に冷静でみんなからの信頼が厚い。
チームビルディングのとき、一番最初に脇村さんを引き入れたからこそ、このチームができあがったのです。
発表のときでも、スイッチングなど一番責任のあるところを任せられたのでした。
企画の骨格がしっかりしていたのは、脇村さんのおかげです。
もうひとり、プランナー守田さん。
うちのチームの紅一点、かわいい方です。そして才女。
とにかく頭がいいので、みんなが考えたゲームやプレゼンのロジックのほころびを発見してくれます。そして代替案までも提案してくれます。
彼女がいなければうちの企画は平坦なものになっていたでしょう。
企画が楽しいものになったのは、守田さんのおかげです。
さらにプランナーの金丸さん。
プレゼンでストーリーテーラーをやってくれました。惚れ惚れするようないい声は武器。
頭の良さに加えて度胸もあるので、プレゼンでやってほしいことを、伝えたらすぐに意図を汲み取って反映してくれるんです。楽しいプレゼンは彼抜きでは絶対にできませんでした。
みなさんに高く評価していただいたプレゼンの完成度は、金丸さんが高めてくれたのでした。
そしてエンジニアの中村さん。
本大会全員のなかで、一番チャレンジして一番成長したのは彼です。
もともとエンジニアリングも未経験で、プログラミングも全くわからない状態でしたが、せっかくハッカソンに参加したと言うことで、なんと1週間でAWSを触れるようになって、EC2サーバーでLAMPの開発環境を立ち上げています。
のみならず、全くプログラミング経験のない状態から、半日でLINE botを作成し、LINE賞までいただきました。
ハッカソン中、誰よりもいちばんチャレンジングで、そして成長したのは中村さんでした。
というわけで、構成としてはプランナー4人、エンジニアわたしも入れて3人というようになっています。
はじめは、プランナー4人はちょっと多いかなと思ったんですが、これが大正解でした。
仲が良くて頭がいいプランナー4人は、議論が活発かつスムーズなのです。
とにかくみんなで前向きな議論を交わして、頃合いのいいころにわたしに提案をもってくる、わたしはそれを承認するのみ。
提案を受けてエンジニアは何分か後には実働サンプルを持ってくる。
こんな優秀なチームの上司、さぞかし楽しいだろうな、と思うでしょう。じっさい、ものすごく楽しかったです。
このチームに出会えたことを、冗談抜きで孫にまで自慢します。
これもよく勘違いされるので、この場ではっきり書いておきたいところですが、わたしは、ハッカソンの勝敗について「楽しむ」ことの上位に置いていません。全ては「楽しむこと」を優先します。
では楽しければ勝ち負けはどうでもいいのかというとそうではなく、勝ち負けにこだわることは楽しむために必要というスタンスです。
「人狼」という、みんなで遊ぶゲームがあるのですが(ちなみに、ですが、あのゲームをみんな「嘘をつくゲーム」と勘違いしていますが、あのゲームの本質は「信じてもらうゲーム」です。嘘であろうとなかろうと、とにかく自分を「信じてもらう」ゲームなのです)、あのゲームは勝っても負けてもいいやというスタンスで参加すると、とたんにみんながつまらなくなります。自分がつまらないだけならまだしも、場にいるみんなをつまらなくさせます。みんな勝ちたいから、必死になって「自分を信じてもらうにはどうすればいいか」を案じるのです。だから楽しいのです。
それといっしょで、ハッカソンだって「どうせ負けるからなんだっていいや。目立てばいいや」みたいなスタンスでは参加していません。そこはわかると思います。
「勝つためには、時間いっぱいまでさんざん苦しむことも必要。それもまたハッカソンの楽しさ」として、楽しむために勝ち負けにこだわっているのです。
それを踏まえた上で、自分がハッカソンでとった戦略は、「とにかく他者を楽しませること」でした。
「他より秀でているか」、その優劣の順番に並ぶのではなく、「他にはないか」で選ばれるための戦略をとって、それでも戦略がうまく回らず負けた結果であり、チームのみんなで一生懸命走り抜いたからこそ、こう言えるのです。
「結果は負けたけど、みんなに楽しんでもらえてよかった」と。
月並みな表現ですが、言葉の重みは全然違います。
本当に参加してよかった。
参加者のなかに、こういう方がいらっしゃいました。
「自分も他局のテレビ局の人間なんだけれど、自分ところでもハッカソンやりたくて提案してるのに、毎回却下されてしまう。どうしても参加したくて、今回、局に内緒で来ちゃった」
いまやどこのテレビ局もが注目するITイベントとして育ったMBSハッカソン。
いち参加者としてその歩みに寄り添えたのは、わたしもとてもうれしいです。
結局のところ、わたしたちのアイデアを買ってくださって、本戦にまで押し上げていただいた厚切りジェイソンさんの期待に答えることはできませんで、優秀賞以上をとることはできませんでした。
「あのとき、無理やりでも押し上げた厚切りジェイソンさんの読み通り、本当に素晴らしいものになったね」と誰からも言われるようなものを作れれば、ジェイソンさんも鼻が高かったでしょうけど、そううまくはいかないのもMBSハッカソンの面白いところ。
少なくとも、わたしたちは誰に恥じることもなく1週間を戦いきり、楽しいプレゼンをやりきることができました。
プレゼンに与えられた8分間で、伝えられなかったことをあとになっていろいろ書くのは好きじゃないので、この場では書くことはないですが、いろいろと意味があってやったことも多く、そのへんが伝わらなかったのは少し残念です。どうかどなたか、会った時に聞いてください。「宇都宮さん、伝えられなかったあのへんって結局何なん?」と。
自分のような、メディアアーティストになれなかった系のホームページおじさんが、若いみんなとチームを組んで快進撃を続けられたこの1週間は、最高に楽しかったです。
自分以外全員優秀という、負けるほうが難しいメンツを従えて負けるという、贅沢な大人の遊びも覚えました。ま、それは冗談ですが。
学生さんや若い参加者が増えてきたことは、とてもいいことだと思います。わたしも、できるだけ若い人たちのお手本になるような振る舞いを心がけていて、そのまま私の真似をしても負け続けるだけですが、どこか一部だけでも参考になるところがあれば参考にしてもらえればうれしいです。
「テレビはすでに開かれている」とは、審査員のどなたが喋った言葉か忘れましたが、はっとしました。
今まで閉じてたテレビが開いて、面白い奴が集まってきてる。
これから面白くなるのかどうなるのか、わからないけどとりあえずやってみる。
これが未来でなくてなんなのか、未来はもうすでに、ここに来ていたのでした。
板一枚、鉛筆一本を、面白いコンテンツに変えることができるMBSのテレビマンたちは、このハッカソンを今後どのように活かしてくれるのでしょうか。とても楽しみです。
まずは今回のハッカソンの様子は2017年3月24日(金)深夜1:20から放送だそうです。視聴エリアにいないひとたちも、1ヶ月の見逃し配信があります。ふだんITに興味ない人たちにも、自分たちの取り組みを見てもらえるいい機会として、放映も楽しみにしています。
テレビ局がハッカソンを開催する、言葉にすると簡単なことのように思えますが、実現には本当にたくさんの困難があったことと思われます。反対意見も多いと思います。産みの苦しみのなかで、反対意見が出るのは当然なのですが、それでも順風とはいいがたい状況で3回も開催することの大変さは、おそらく参加者の想像を超えるものだと思います。
「本当に美味い料理番組を作っているのに、実際に料理してくれている人は少ない。なんとかして料理を作ってもらえるアイデアを出したい」
アイデアソンに参加した、ある料理コーナー担当のテレビマンの方の言葉がとても印象的でした。
テレビって、放映されたら終わりなんじゃなく、その先の、見てくれている人の生活を本当によくしたいと考えられて作られているんだと気付かされる一言でした。
テレビの未来の先にあるもの、MBSが旗を振って見つけようとしているものが何なのか、すこしわかった気がしました。
MBSなら、きっとテレビの先にある面白いもの楽しいものすごいものを作れるように思えます。その試行錯誤の過程に、わたしもいち参加者として関われたことを、ものすごく嬉しく感じました。