私が読んだKindle書籍の中で、アマゾンのトップに並ぶことは絶対にないだろうと思われる本を、おすすめしてみる企画。
最初から飛ばしてみます。まずは事件・犯罪ものノンフィクションという呼び名で自分が名付けているジャンル。
実際に起きた犯罪事件を、新聞やテレビでは伝えられないところまで詳しくリポートした本になります。
歴史ものとの違いは、比較的新しい事件を扱うので被害者や遺族、加害者などの関係者がまだその傷が癒えぬまま生活しているという点になります。また、歴史のように様々な視点からの解釈がされている、少なくともされる余地を残しているということがほとんどなく、多くの場合は解釈はルポライターの技量に依存することになります。そのため、好奇心で読むには、あまりいい趣味とは言えないところがありますし、ましてやブログでアフィリ付きで紹介することに何度も心理的な壁を感じてしまって、何度も筆が止まったり公開をためらったりしました。
もともと、事件の詳細な話しなどをネットで調べて読むのが好きだった私が、この手の本を読むようになったのは、自分に新しい家族ができたのと時を同じくして、神戸の尼崎で、ある犯罪者集団に関わった家族が次々と不審な死をとげていたり行方不明になっている事件が明るみになり、話題になったころです。
被害者のひとりに、ウェブデザイナーを目指していた人がいたというのも、何だか他人事に思えなくて気になっていました。
被害者達を完全にマインドコントロール下におき、 家族同士でいがみあわせ乗っ取る。
この手の犯罪に巻き込まれたら、防ぐ術がありません。ではいかに巻き込まれないように家族を守らなければいけないか。それを知りたくて、今まで欲しかったけどそのままにしていた、事件について詳しく書かれた本を買って読むようになりました。
消された一家―北九州・連続監禁殺人事件―
ということで、一冊目は尼崎の事件とよく似た北九州の事件から。
久留米の集落に古くからある、裕福な農家で農協の役員を務めるほど地元からの信頼も厚くそれまで犯罪と何の縁もなかったはずの一家が、たったひとりのチンピラに完璧なまでにコントロールされて殺し合いが行われたという、凄惨な事件について、その裁判を主に傍聴しながら取材を進めて書かれた本です。
オススメの本を紹介する記事でありながら、一冊目から万人にはオススメできない、読んだら最短1週間は絶望のどん底から戻ってこられなくなること請け合いの、非常にクセの強い事件について書かれた本からの紹介になりました。
冒頭にも書きましたが、この手の犯罪者に目を付けられてひとたび支配下に置かれてしまうと、防ぎようがないということを強く再認識する本でした。
家族ができてから独学で学びましたが、この手の犯罪者は家族愛すらも巧みに利用して罠にはめるみたいですね。
例えば、集団の中で一人だけを徹底的にかわいがり、一人だけを徹底的にいびると、集団は結束力が弱くなる。
親は子供を守りたいと思うのが普通なので、子が酷い目にあうくらいならと親のほうがいびられ役を買って出るようになる。
そこで、子供に親を憎むように仕向け、親を殴らせれば、あっというまに親子関係は修復不可能なものに崩れてしまう。
といった具合に。
我々が築いてきた、大事なものが全て、ぐらぐらと崩れていくような気持ちになった事件でした。
それだけに、せめて目の前にある大事なものは全力で守ろうと、生半可な心どころか、普通にちゃんとしてても崩れるときは崩れる類のものなので、普通以上にちゃんとしなくてはと決心させる、いい勉強になりました。
つらいときや苦しいとき、心がどこか低いほうに流れそうになったとき、いつもこの本を思い出して、今この心を利用されたら全てを失うと思って、ふんばっています。
ルポ 虐待 ――大阪二児置き去り死事件
大阪南堀江のマンションに、3才の女の子と1才9ヶ月の男の子を置き去りにして餓死させた母親の事件についてのルポ。
飢えながら母親を待つ子供たちは、どんな顔をして泣いていたのか…。今でも思い出すたびに泣けてきそうになる事件でした。
現役子育てお母さんは読むと欝のどん底から戻って来れなくなると思います。オススメできません(オススメの本を紹介する記事なのに!)。
近所に泣き声がもれないように、スキマをテープで塞いでまで子供を放置し、ホスト遊びざんまいで子供を餓死させた母親は、「殺意はなかった」と主張。私は、なんとなくわかる気がします。
こういう事件の場合、想像力を働かせないと”我が子を見殺しにした鬼婆”みたいな母親像を浮かべそうになるかもしれませんが、自分があまりちゃんとしてない大人だからなのかもしれませんが、何となくわかるんです。こういう事件って、ちゃんとしてない人じゃなくて、”ちゃんとしようとしてるのに出来ない人”が何か条件が整った場合に起きるんだろうなということが。
で、その条件っていうのが、この事件の場合は”孤立”だったんだと思います。
子育ても必死で、ちゃんとしようとしていた母親が 、徐々に孤立することによって引き起こされた、とても悲しい事件でした。
凶悪―ある死刑囚の告発―
映画にもなりましたが、本のほうが面白いです。
実際にあった事件なのに面白いって言ったら不謹慎かもしれませんが、話を進めます。
主な登場人物は[記者] [死刑囚] [先生]の三人。
元ヤクザの[死刑囚]が[記者]に持ちかけた、前代未聞の証言から物語ははじまる。
それは、[先生]と呼ばれる一般人が人知れず行っている、人の命をお金に換える凶悪な犯行。しかも警察もそのことを把握すらしていない、というもの。
一般人の、しかも警察はマークするどころか殺人事件そのものさえ把握していないという[先生]こそが凶悪な連続殺人犯だという、[死刑囚]の言葉。[記者]は信じていいのか、悩みながら取材を行う。
[死刑囚]の示す、遺体を埋めたとされる場所を調べてみるが、何も発見できず。しかし何かを隠滅した工作を行ったような跡は見つかった。[死刑囚]はこのように言って喜ぶ。
「それこそが[先生]が犯人である何よりの証拠です。遺体が見つかるのを恐れたんですから」
警察が、おきたことさえ知らないという数々の殺人事件。
不自由な塀の中から、先生の足取りを告発していく[死刑囚]
死刑囚の唯一の頼りの綱である[記者]
圧倒的に有利な立場に立っているはずの[先生]
しかし先生が安全圏に居るためには、死刑囚の知っている証拠を記者がかぎつけるよりも早く隠滅していかなければならない。このことを利用して死刑囚は塀の中から、先生の行動を予測し、予知する。
このような、「めっちゃIQの低いレクター博士」(なんせ塀の中にいる死刑囚はシャブ中の元ヤクザ )が繰り広げる、知能の低い頭脳戦(これはこれで面白い)が繰り広げられる前半。
いよいよ[先生]を追いつめるときに登場する[先生の右腕]と呼ばれる男。
はたして[先生の右腕]は[先生]の味方なのか。[記者]の味方につけられないのか。
などなど、映画の脚本家が読んだら悔しがるほど面白い話しが、実際に起きた事件として書かれてあります。
本当に映画になりましたが、映画のほうは「冷たい熱帯魚」系の、ノンフィクション色強い方向で出しちゃったので、それはそれで面白いですが個人的にはもっと心理戦、頭脳戦描かれたホラ話として出して欲しかったなあ。
桶川ストーカー殺人事件―遺言―
若い女性がストーカー被害に悩まされ、ついに殺害されたとき、警察は”被害にあった女性は派手な服を着て男をたらし込み、風俗店で働いていて、殺されても仕方がなかったとまでは言わないけど、落ち度があったというか、まあ、察してよね”という風な発表をして、おやこりゃなんかおかしいぞと思ってたら、警察がすんごいことやらかしちゃってた!という事件。
警察側も自殺者続出してるという、やらかし具合半端無い。おや、誰か来たようだ。
───アマゾンでした。
子を持つ親の身としましては、被害者のご遺族の心情が痛いほど伝わってくる一冊です。
誘蛾灯 鳥取連続不審死事件
鳥取の、ある女性のまわりで次々と起きる、不審な死。
ちょうど、木嶋佳苗被告の事件と対比させられることが多い事件です。
木嶋佳苗のほうは、なんと本人が書いた文がブログでアップされているので我々はいつでも読めます。改めて、すごい時代になったと思います。
で、誘蛾灯のほうですが、こちらは鳥取という土地がもつ、地方独特の行き詰まった雰囲気がなんともやるせない本です。
上田美由紀という女が起こした事件なんですが、この上田という女を一言で表すと”嘘”という言葉に尽きると思います。この上田という嘘つきの周りで、次々と男が死んでいくわけです。
なぜなのか。
なぜ、地位も名誉もある男達が、全てを捨ててまで(命まで)、この、女性としての魅力に乏しい女の手玉にとられるのか。
タネを明かしてしまえば(この本は別に謎解きの類の本ではないので)、一回関係を持ってしまったら上田は「妊娠した」と嘘をついて全ての要求を通そうとするからなのだけど、実際に人間は、この手の「消費MP : 0で嘘がつける人間」の嘘には対応できるようにはなってないのです。
そして、 「消費MP : 0で嘘がつける人間」は、犯罪インテリジェンスに関わらず少なからず存在します。
そんな人間に対して、誤った対応をしてしまった、田舎での悲しいできごとの物語でした。
さいごに、まとめ
記事中、ときおり”面白い”とか”物語”とか、実際に起きた出来事に対して不謹慎とも受け止められる表現があり、もしかしたら気分を害した人もいたかもしれません。
冒頭にも書きましたとおり、歴史のように多角的な視点から検証もされず関係者の傷も癒えていないノンフィクションの話しを紹介することは、あまりいい趣味ではないと認識しています。
それだけに、実際に起きた事件に対しては、当事者でないなら感情移入しないというポリシーを持って接するようにしているので、これは、正の感情であれ負の感情であれ、当事者でない第三者の余計な介入は、例えちょっとした口出し程度だとしても当事者達の多大な迷惑になるという経験から、そう決めているからです。
ですので、「この話しは、実際に起きた事件をもとに構成されたものである」という出だしからはじまる、映画”ファーゴ”をみる気分で、できるだけ”実際に起きた、恐い話し”を聞く態度で、事件の読み物に対して接するようにしている、私のスタンスですので、理解してもらえると助かります。
kindleで売られている事件ものノンフィクションは、数が少なく、そのうえほとんどが読むだけ無駄なものが多いのですが、その中から選んだ子の5冊は全て面白いのでオススメです。逆に言うと、kindleで読める範囲内ではこの5冊以外は今のところ読むだけ無駄というか。
あと、私はこれらの本を家族を守るお父さんの立場で、読みました。
いないとは思いますが、これらの本を読んで「ようしこれで俺も犯罪対策はバッチリだ」とは思わないで下さい。犯罪者は、こちらが用意した対策の上を行きます。対策を施してる前提で、それを利用してきますので、生兵法は怪我の元です。
普通に暮らしてて、これらの凄惨な事件に巻き込まれる可能性を心配するくらいなら、普通に歩いてて車の事故に巻き込まれることに気を付けたほうがよっぽどマシですが、いちおう犯罪に巻き込まれないための行動としてベーシックなのは、
「酒、浮気、金」の問題を抱えないことに尽きると思います。
そのことは、これらの本を読んで強く再認識しました。
ということで、犯罪ものノンフィクションのジャンルでもアマゾンのトップに並ぶことなく埋もれてる濃い事件を扱った本ばかり紹介してみました。興味ある本が見つかればうれしいです。